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§土壌埋設型センサ一利用による茶園の施肥管理技術
静岡県茶業試験場
研究主幹 岩橋 光育
§チャに対するロング施用試験
京都府立茶業研究所栽培課
技師 藤井 孝夫
静岡県茶業試験場
研究主幹 岩橋 光育
昭和40年頃から急速に茶園における施肥量が増加し,現状の施肥量は窒素成分で施肥基準の約1.5倍の100~120kg/10aにも達し,肥料費は第一次生産費の20数%を占めています。このような多肥栽培は,土壌環境の悪化だけでなく茶樹を脆弱化させ,品質や収量にも悪影響を及ぼすことが心配されています。
多肥問題の解決のためには,従来の栽培暦に準じた施肥にかわり農家が簡単にしかもリアルタイムに土壌中の施肥成分の量を把握できるとともに,同時に適切な施肥時期,肥料の種類と量を判断可能な施肥管理技術が必要である。このため,茶業試験場では過剰な施肥をなくし,健全な茶樹の育成により生葉の品質向上と収量増加を図るために,平成元年から「土壌埋設型センサーを利用した茶園の施肥管理実用化技術の確立」の研究を行っています。
ここでは,ECセンサーを利用した土壌中の無機態窒素量の測定法,センサーの使用方法,茶園における肥料成分の形態変化及び移動速度,健全なる茶樹を育成するための土壌無機態窒素量の策定及び実用化のための施肥管理モデルの作成について述べます。
茶業試験場では,土壌診断により窒素量を測定する診断法に代わる手法として,ECセンサーを利用した土壌中の無機態窒素量の測定について検討しました。
土壌中無機態窒素量を推定するため,ECセンサー測定値と土壌中の無機態窒素濃度との間には,高い相関関係がみられ,センサーEC値から無機態窒素量を推定することが可能となりました。
ECセンサー測定値と土壌含水率から土壌中の無機態窒素量を推定するための推定式は以下のとおりです。
A=推定窒素量(mg/±100g)
B=センサーEC値(ms/cm)
C=土壌含水率(%)
A=B×((-0.096(55.5-C)/(-0.096×C+14.024)+1.0))×7.790-1.220
A=B×((-0.121(41.0-C)/(-0.121×C+11.428)+1.0)×7.430-4.330
A=B×((-0.106(45.0-C)/(-0.106×C+16.872)+1.0))×6.740-0.200
一方,ECセンサーの測定値は,降雨により土壌のなかの含水率が変化するにつれてEC値も変化します。そこで,土壌含水率とECセンサー値との関連について検討した結果,両者の間には規則性があり,ECと同時に土壌中の含水率を測定すれば無機態窒素量を正確に推定することが可能となりました。
また,平坦地において茶園の養分状態を把握するためのセンサーの使用方法として,1茶園にECセンサーは,うね間中央部の深さ20cmにうねに1本づつ,計4本配置する方法が,水分センサー((株)イー・エス・デイ社製,非定常線熱源ヒートプローブ型)は,概ね2本をECセンサーと同様に配置する方法が適当と考えられました。
土壌埋設型センサーによる施肥管理を行うには,施用した肥料の土壌微生物による分解(無機化)速度及びその後の硝酸化成速度を明らかにする必要があります。土壌微生物による分解及び硝酸化成は,土壌の種類,地温及び土壌水分量により大きな影響を受けます。
そこで赤黄色土,黒ボク土及び礫質土壌における各土壌pH(3,4,5),地温(5,15,25℃)及び肥料(硝安,硫安,尿素,なたね粕,魚粕,肉骨粉,IB,CDU)の種類の違いと窒素成分の分解,硝酸化成との関連性を90日間にわたり調査しました。
図1に温度の違いが菜種粕の無機化及び硝酸化成に及ぼす影響を示しました。

この図は,土壌pH5の赤黄色土における分解を示しています。5℃では菜種粕は分解が非常に遅く90日間でも25%程度しか分解しないが,15℃では20日目で35%,30日目で55%程度分解し,25℃では20日目で37%,30日目で66%分解することがわかりました。
また分解後の硝酸化成をみると5℃では殆ど進まず90日目で5%しか硝酸に変化しません。15,25℃では20日まではあまり硝酸化成は進みませんが60日目で15℃では44%,25℃では62%が硝酸へ変化していることがわかります。
このように肥料の分解及び硝酸化成は土壌温度の影響が大きいことが改めて認められました。特に温度が低い場合は分解が極端に抑制されており,地温が低い春肥の施用にあたっては留意が必要です。
また,図2に肥料の種類の違いによる硝酸化成の推移を示しました。その結果,硝酸化成は肥料の種類の違いにより大きく異なっており,化成肥料では硝安が最も速く,次に尿素,硫安と続き,有機質肥料では最初は魚粕の方が菜種粕にくらべて速く分解しますが,60日目以降になると両肥料とも60%程度で分解が急に遅くなる傾向が認められます。このように施肥設計や施肥にあたっては各肥料の特性を把握して施用することが重要です。

つぎに,図3にpHの違いが硝酸化成及び無機化におよぼす影響を示しました。その結果,菜種粕の分解の速度は土壌pH5が最も速く,次にpH4,pH3の順であり,土壌が酸性化するほど分解速度が遅くなる傾向が認められました。

以上のように,ある肥料を施用しようとする場合,土壌の種類,施肥時期(地温)及び施用量がわかればその肥料の土壌中での無機化及び硝酸化成によって経日的に窒素成分の発生量の予測をすることが可能となりました。
土壌埋設型センサーによる施肥管理を行うためには,施肥の要否の判断基準となる生育周期に応じた土壌窒素量(目標窒素量)を明らかにする必要があります。この土壌窒素量は,土壌類型,栽培形態,地形条件などにより異なります。
そこで平成1年~3年にかけて平坦地の赤黄色土及び黒ボク土茶園において,適正な施肥管理を行い高品質の生葉を生産しているハサミ摘み茶園(土壌毎に静岡県茶試を含め14農家)での,栽培方法,施肥管理方法,荒茶品質,生育状況及び土壌中無機態窒素濃度の年間変動を解析し,図4にしめすように目標とする生育周期に応じた土壌窒素濃度を明らかにしました。

土壌埋設型センサーによる施肥管理のために,各種センサーによる自動測定,測定値からの無機態窒素量を推定し,生育周期に基づいた土壌窒素濃度(目標窒素濃度)を維持するための施肥時期及び施肥量の判断可能なマイクロコンピューターを用いた施肥管理基本モデルを作成しました。このモデルは,センサーからEC値,土壌含水率,地温を自動的に測定し,次に,パーソナルコンピューターでこれらの測定値から土壌中の無機態窒素量を算出します。
また,3.で述べました肥料成分の硝酸化成のデータをこの基本モデルの中に組み入れたことにより,今後の各種肥料の施用に伴う土壌中無機態窒素量の変化の予測が可能となりました。さらに,その窒素成分毎の発生量,その合量である発生無機態窒素量とその時期の茶樹の窒素必要量(基準)とを画面上で比較することができます。
静岡県茶業試験場では開発した施肥管理モデルを利用して,今年の春肥の施用にあたりコンピューターによる窒素の発生予測を行い,施肥時期,肥料の種類及び施肥量を変えてシミュレートさせ,いつの時期にどの様な肥料をどの程度施用するかを判断しました。その結果を図5に示しました。


この結果に基づき今年の赤黄色土茶園での春肥(Ⅰ)は2月10日に硝安を10アール当り,29kg春肥(Ⅱ)は2月25日に配合肥料(窒素成分で硝安,硫安,魚粕,各々3.2%含有)を156kg,芽出し肥は硫安を3月25日に38kg施用しました。夏肥以降の施肥管理についても,コンピューターの予測分析による施肥管理を行なっています。
開発中の施肥管理システムは,リアルタイムな土壌中の養水分の把握だけでなく,コンピューターを利用して施肥時期,施肥量を予測計算し,農家自身の判断による施肥が可能となります。この技術が確立されれば施肥量の削減だけでなく,根圏環境が改善でき,茶樹の健全育成が図られ,品質の向上,収量の増加が図られるものと考えます。

平成4年度は開発した施肥管理実用化モデルに基づいた施肥による本技術の実証を行うとともに,本モデルの操作性の改良や低価格化などについても検討を行っています。
京都府立茶業研究所栽培課
技師 藤井 孝夫
チャは飲料として高い嗜好性を持ち,新芽に含まれるアミノ酸等の含有窒素化合物の濃度を高めることが品質向上につながることが知られている。また,栄養生長を重視した需葉作物であることから,肥培管理においては,茶樹の養分吸収量を上回る肥料成分を施すことが慣行的に行われている。
ところで,京都府では最近の抹茶需要の増加傾向を反映して,ここ6年間に抹茶原料となるてん茶の生産量が増加しつつある。てん茶栽培では,玉露やかぶせ茶と同様,新芽生育中の含有アミノ酸の分解を抑えるため,一番茶期に遮光栽培を行うのが特徴である。
しかし,てん茶栽培では,かぶせ茶や玉露に比較して,葉齢の進行した時期に新芽を摘採するため,肥効持続期間が長く必要であり,しかも生育の進行に伴う収穫量の増加は,茶園からの収奪量を大きくする。このため,てん茶栽培では,かぶせ茶や玉露に比較して多量施肥の傾向にあると推定される。
本稿では,上記てん茶栽培における効率的な施肥方法を検討するため,機械摘採によるてん茶栽培を想定し,ロングの施用試験を実施したので,それらの結果を紹介する。
コンクリート製の無底枠(1m×1m×1m)に施肥来歴のない砂壌土を充填し,あらかじめワグネルポット(a/2000)で栽培(約5年)しておいた‘やぶきた’を1株ずつ定植した。その後,表1,表2の条件で一試験区2反復で栽培及び調査を行った。


茶株の摘採面積は,試験区間で均等になるよう平成2年秋までの整枝により調整した。また,土壌の養分状態を把握するため,表層より20cm,40cm,60cmの各位置に,ポーラスカップを埋め込み,真空採血管を用いて土壌溶液を採取し,液中のアンモニア態窒素,硝酸態窒素濃度を測定した。窒素濃度は,時々の土壌水分の違いによりばらつくことが予想されるため,できるかぎり降雨後数日以内での採取を心掛けた。
また,一番茶の品質評価のため,新芽の遊離アミノ酸含量を測定した。通常,茶の品質評価では,標準的な製造を経た後,官能審査により,香りや色,味等について優劣を相対的に判定する。
しかし,今回の試験がポット栽培であり,標準的な製造法を行うには一番茶新芽の量が少なく,簡便法として一番茶新芽を蒸熱処理後,加熱乾燥したものを試料とし,遊離アミノ酸含量を測定した。施肥反応との係わりでは味が品質の主たる要因であり,さらに,味の良否は主に遊離アミノ酸含量に左右されることから,遊離アミノ酸含量を品質の尺度とした。
一番茶以降10月の秋整枝までの生育量は,秋整枝の影響が大きく45kgレベルでは併用>慣行≧被覆,90kgレベルでは慣行>被覆>併用の順となり,施肥量の違いにより傾向が異なった。45kgレベルでは,ロングと慣行資材との併用により慣行区に比較して生育増加が認められた。90kgレベルでは,ロング施用区での二番茶,秋整枝時の摘採量が少なく,ロング施用区での高温期における生育低下(二番茶や秋整枝摘採量の減少)の可能性が考えられる。
これらのことから,年間45kgの窒素施用ではまだ充足域にはなく,増施による生育量増加の可能性があり,その場合夏季高温期の肥効が制限できるようなロングの施用を行うことにより,より効率的な増施効果を期待できそうである。
ところで,機械摘採によるてん茶栽培では,一番茶の刈直し芽や二番茶芽の摘採,秋季の摘採は,翌年一番茶に向けた茶園の整枝が主目的であり,これらの茎葉を製造せずに刈り捨てるのが通例である。このため,農家の収益を考える場合には,一番茶収量を増やすころが重要な課題となる。
一番茶収量では,90kgレベルの方が45kgレベルよりもやや優れており,45kgレベルでは慣行>被覆>併用,90kgレベルでは併用>慣行>被覆の順となり,90kgレベルでロングと慣行資材を併用した併用90が最高収量を得た。(図1)

一番茶新芽中の遊離アミノ酸は,明らかに45kgレベルよりも90kgレベルで高く,施肥量の増加に伴い,一番茶新芽の含窒素化合物の上昇傾向が明かとなった。45kgレベルでは被覆45が,90kgレベルでは併用90が,各々高濃度にアミノ酸を蓄積しており,茶の主要なうまみ成分であるテアニンやアスパラギン酸濃度が高かった。(図2)

併用90を例にとると,アンモニア態窒素濃度は深さ20cmで,秋肥施用直後の10月上旬~11月中旬および3月中旬~一番茶新芽の生育時期に上昇し,深さ40cm~60cmでは,きわめて低濃度に推移していた。(図3)

一方,硝酸態窒素濃度は,深さ20cmで,アンモニア態窒素と同様の時期に上昇したが,アンモニア態窒素が低濃度である11月~3月でも比較的高濃度に推移していた。さらに,硝酸態窒素は深さ40cm~60cmでも高濃度に推移しており,硝酸化成作用および硝酸態窒素の下層への移動が速やかであることが伺える。(図4)

試験区別にみると,アンモニア態窒素濃度は,45kgレベルでは,90kgレベルに比較し10分の1のオーダーである。そして45kgレベル,90kgレベルともに,一番茶期には,ロングを施用した試験区でアンモニア態窒素濃度は慣行区のそれを上回っていた。(図5,図6)


硝酸態窒素は,アンモニア態窒素に比較して当量比でかなり高濃度に推移しており,45kgレベルと90kgレベル間では,90kgレベルの方が高く推移し,アンモニア態窒素の場合程の隔たりはなかった。また茶樹の養分吸収が比較的不活発と考えられる12月~2月でも高濃度に推移しており,施肥窒素成分の硝酸態窒素としての流亡が懸念される。(図7,図8)


土壌の養分状態として各試験区の土壌溶液中の無機態窒素濃度(前年9月~5月までの測定値を平均した)を用い,各々の一番茶新芽中の遊離アミノ酸含量(ニンヒドリン発色法)との関係を検討した。
一番茶の遊離アミノ酸含量は,土壌のアンモニア態窒素と正の相関関係にあり,硝酸態窒素ではアンモニア態窒素程の明瞭な関係はみとめられなかった。(図9)

年間の全生育期間を通じて,生育に及ぼす硝酸態窒素の寄与を否定できないが,一番茶新芽の遊離アミノ酸含量を高めるには,少なくとも土壌中のアンモニア態窒素を安定に維持することが重要であると考えられる。
今回の結果からは,どの時期の土壌養分状態がどの程度一番茶品質に影響を及ぼしているかを明確に解析することは困難である。しかし,試験区間では一番茶期直前から一番茶期にかけてのアンモニア態窒素濃度の影響差が明瞭であり,この時期の濃度差が一番茶品質の差に大きく反映されたと考えられる。
従って,地温が上昇しはじめる春先から4月にかけて,ロングの溶出特性と慣行資材の肥効特性が,土壌中のアンモニア態窒素維持に有効に作用し,一番茶新芽の遊離アミノ酸含量上昇の一助となったものと考えられる。
はじめに述べたように,チャは慣行的に品質を重要視した栽培形態を取ってきている。一部篤農家で行われている,養分吸収量を大幅に上回る施肥は,経営的には,あくまでも生産物である茶の価格が高水準にあることが前提条件となる。
しかし,技術的には,「肥切れ」を起こさず,可能な限り品質の低下を避けようとする安全策であり,土壌中の養分濃度に関して,品質の充足域が収量の充足域よりも高濃度の側に存在するというチャの生理特性に対応した特殊な肥培管理法と考えられる。
従って,チャにおいては環境保全に逆行するような極端な多肥栽培は論外として,肥培管理にあたってはあくまでも高品質追求という視点をもたねばならない。今回の結果を,その収益性や環境負荷量といった点から検討するため,試験区別に肥料価格,アミノ酸含有量,環境負荷量の図示を試みた。
肥料価格は,10aあたり各施用肥料の平成3年度流通価格をもとに算出し,アミノ酸含有量は,一番茶乾物収量と遊離アミノ酸濃度との積より求めた。環境負荷量は,根系からの溶脱量より求めるのが適当であるが,ここでは養分吸収への寄与が比較的低く,しかも地下水系への影響が大きいと考えられる深さ60cmでの土壌溶液中の無機態窒素濃度の推移より求め,その値はあくまでも推定値である。なおアミノ酸含有量及び環境負荷量は,相対値で表示した。(図10,図11)


環境負荷量は45kgレベルでは,慣行区が最も少なく,90kgレベルでは慣行区が最も多かった。施肥量の多少や,ロングと慣行資材の施肥時期等の違いにより,環境負荷量は変動する可能性があり,環境負荷量軽減には茶樹の養分吸収を考慮した施肥法を検討する必要がある。ただ,45kgレベルが収量に関して充足域にないことを考慮すると,増施をし養分吸収が増加した場合には,慣行区とロング施用区間の環境負荷量の差が縮小する可能性も考えられる。
環境負荷量の大きさには,下層土の硝酸態窒素量の影響が大きい。硝酸化成作用が弱くアンモニア態窒素が比較的安定に維持されると結果的に硝酸態窒素の富化が抑制されることから,環境負荷量の大きさは表層土のアンモニア態窒素量と関連が深いと考えられる。このことが,今回の結果で,環境負荷量が少ない程アミノ酸含有量が増加する傾向にあったことの理由のひとつとして考えられる。
最後に,チャではアンモニア態窒素の富化が品質向上の必要条件となる。今後,品質の向上や生産費の低減を含め,環境保全にも配慮した効率的施肥を行うためには,収量充足域でのロング肥料利用が有効な手段のひとつであり,また硝酸態窒素への変換を最小限に抑えて,アンモニア態窒素を安定維持することが有効であると考えられる。